山や岩、花や果物、動物や人類など自然の中にとても気持ちの良い形がある。それらに人間が手を加えた物に僕は興味がある。芸術、建築、工業製品、自動車など。中でもイタリアでデザインされた自動車に自然の美しさや人生の喜びなどを強く感じ、その車のコンセプトの中で、デザイナーの体験や教養がうまく表現されていると思う。
僕は目的にあった車が好きだ。都会を走り回るウーノやサンク、ファミリー旅行に最適なエスパス、フォーマル用のテーマやR25、コートダジュール用のBME Z1、夫婦や彼女との小旅行にはルッソやミストラル。
色々な車を運転した経験はあまりないが、今まで乗った車で特に気に入っているのがホンダS800だ免許取り立ての1969年、まだ生産中だったS800に日本で乗っていた。エクステリアデザインは余り好きではないが、車との一体感、エンジンレスポンス、オープントップの爽やかさなど、強く印象に残っている。そして28年後の今、フランスでまたS800に乗っている。僕にとってこの車はデザインが気にいらなくても、乗り続けたい気持ちになる数少ない車だ。絵を描くのも好きだが、自分の気に入った車に囲まれたり、眺めたり、運転するのが一番好きだ。
よく僕の絵のスタイルはスーパーリアリズムと言われるが、的を射ていないように思う。例えばグラマラスなリアフェンダーがその車の一番のチャームポイントだとすると、そのボリューム感を表現するために、必要以上に映り込みを描き込んでしまうからだ。
車の絵を描くうえで大切なことは何より第一印象だ。ヨーロッパ内の注文だったら実際に車を見に行き、乗せてもらい、なでまわし、印象をしっかり記憶する。そしてアトリエで思い出すために写真を撮る。自動車に限らずあらゆる道具もそうだが、まず形そのものを見るようにする。ちょうどロダンやマイヨールの彫刻を見るように。そして室内に入り、空間との調和やコンフォートを味わう。車をスタートさせ、エンジンレスポンスや、ブレーキングなど走る要素も楽しむ。走らせた時の感動は自分の心にしまっておき、その車の彫刻としての形をカンバスに描きだし、それに力感や動き、さらにはその車との生活感までを加えた4次元の世界を表現したい。
吉田 秀樹(Paris 在住)
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